さようでござります。やまがらは、かわいい山のあの小鳥は、名所の国にいたころからの深いなじみ、おさないうちから飼いならし、使いならして、長年飼い扱ったことがござりますゆえ、恥ずかしいのもかえりみず、みんなこれもかたきゆえ、兄上ゆえと、小屋芸人の仲間入りをいたしまして、その日その日の口をすすぎつつ、兄のかたきを捜していたのでござります。するうちに、似た顔のこの兄弟が――」
「ふたりは兄弟か!」
「あい、腹違いの兄と弟であったとかいうことでござります。江戸の生まれで、由緒《ゆいしょ》はなんでござりますやら、兄は御家人くずれ、弟は小ばくちうちの遊び人、どちらにしてもならず者でござります。不思議なほどよく似たふたりが、通り魔のように現われて、因果な種をまいたのでござります。わたくしはこの弟めに見こまれ、兄のほうは――」
「あの音蔵の妻女に懸想したのか」
「そうでござります。おっしゃるとおりでござります。たびたびわたしにも言いより、兄のほうも音蔵さんのご家内にたびたび言い寄ったことでありましょうが、そんなけがらわしいまねができるものではござりませぬ。ああの、こうのと、あしらっているうちに、ついわたくしがかたき持つ身とこの弟めに口をすべらしたのが災難、――いいえ、因果な種となったのでござります。兄弟ふたりして、うまうまとたくらみ、このわたくしに、兄のかたきはあの音蔵さんだと、まことしやかに告げ口したのでござります。あのとおり音蔵さんは鳶《とび》のかしら、まさかと思いましたが、いいや音蔵は侍あがりじゃ、そなたの兄を討ったゆえに、身をかくして鳶の者になっておるのじゃ、まちがいはない、兄弟して手を貸そうと申しましたゆえ、八年の苦労辛苦に、ついわたくしも心があせり、火の見の下へおびき出してきたところを、みごとに討ったのでござります。――と思ったのが大のまちがい、ふたりにだまされたことをはじめて知ったのでござりました。音蔵さんをなきものにすれば、やがてはあのご家内も思いをかけた兄の手にはいる道理、あやまって人を切らして、その弱みにつけこんでおどしたら、わたしも弟に身をまかせるだろうと、兄弟ふたりがたくみにしくんだわなだったのでござります。それと知って後悔いたしましたときは、もう恐ろしい罪を犯したあとでござりました。なんとかして罪をかくすくふうをせねばなりませぬ。そのくふうも、似た顔のこの兄弟ふたりが入れ知恵したのでござります。切ったは刀であるが、匕首《あいくち》を死骸《しがい》のそばへ捨てておいたら、証拠が合わぬ、傷口が合わぬ、さすれば捕えられても白状せぬかぎり、やがてはご牢《ろう》払いになるに相違ない、ひと月か二十日《はつか》のことじゃ、牢へ行けと、そそのかしたのでござります。それゆえ、わたしもすなおに捕えられ、お牢屋へいって六十日間あのとおり――」
「よし、わかった。それでなにもかもわかった。ほんとうのかたきも討たねばならぬ、だまされたと思えばその恨みもはらしたい、討つまでは、はらすまでは罪におちてはならぬと、六十日の間、拷問、火ぜめ、骨身の削られるのもじっと忍びこらえていたというのじゃな」
「さようでござります。六十日間のお駒の苦しみ、しんぼう――お察しくださりませ。ほんとに、ほんとに、死よりもつらい苦しみでござりました。でも、ご放免になったのは身のしあわせ、まずだまされた恨みをはらそうと、――いいえ、いいえ、だまされて手にかけた音蔵さんへのお手向けに、申しわけに、兄のほうは同じ火の見の下へおびき出し、弟のほうはこの裏の井戸ばたで、みごとに切り果たしたのでござります。――なれども、兄のかたきはまだわかりませぬ。どうあっても捜して討たねばなりませぬ。捜して討ち果たすまでは、三人切ったその罪もかくして、と存じまして、さきほどからのとおり、あなたさまへもあのような強情を張っていたのでござります。――切りました。お駒は三人を、ひと三人を、音蔵さんと、似た顔のこの兄弟ふたりを、ひと三人も手にかけた罪人でござります。なんとも申しませぬ。よろしきようにお計らいくださりませ……」
 声をおとして、くずれ伏すように泣き入りました。三人をあやめた罪があるのです。しかし、兄のかたきは、捜して討たねばならぬのです。討たぬうちにまたひかれていかねばならない悲しさが心を、胸を切りえぐったものか、もだえるように身をよじりながら泣きつづけました。
 じっと見守りながら、長いこと右門も無言でした。――しかし、嗚咽《おえつ》の声が、よよと泣ききざむお駒のむせび音が、なさけの糸をかき締めたのです。
「きっと討つか!」
 刺すような声が、くずれ伏しているお駒の白い青いえり首へ飛びおちました。
「なさけをかけてやったら、きっとお兄上のかたきを捜し出して、必ず討ってみせるか!」
「討ちま
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