でござります。掛ければまた降る、替えればまた降る、三朝、四朝、五朝とつづきましたゆえ、すっかりおじけだちまして、すぐにもだれかに知らせようと思いましたが、うっかり人に話せば、たちまち八方へうわさがひろがるのは知れきったことでござりますのでな、やれ幽霊屋敷じゃ、やれ血が降るそうじゃとつまらぬ評判でもたちまして、せっかくあれまでにした門前がさびれるようなことになってはと、家人にも知らさずひたがくしにかくしておりましたが、きょうというきょうは、とうとうがまんができなくなったのでござります。いつもは朝降っておるのに、いまさっき日ぐれがたに、なにげなく上がってまいりまして、ひょいとみたら、このとおりなまなまとしたのが降っておりましたゆえ、生きた心持ちもなく、あの駕籠を大急ぎであなたさまのところへ飛ばしたのでござります」
 こんな怪事はまたとない。犬の血、ねこの血、人の血、なんの血であるにしろ、替えれば替える一方から知らぬまに降っているとは、いかにも不思議です。念のために、名人は、軸のうえ、天井、左右のぬり壁、軸の下、残るくまなく手燭《てしょく》をさしつけて見しらべました。しかし、軸の外には血らし
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