んだ。手はいくらでもあるじゃねえかよ。ばかばかしい。アハハ……アハハ……」
吹きあげたように、とつぜん大きく笑いだしたかと思うと、さわやかな声がのぼりました。
「ねえ、あにい!」
「…………」
「あにいといってるんだ。いねえのかよ、伝六」
「い、い、いるんですよ。ここにひとりおるんですよ。気味のわるいほど考えこんでしまったんで、どうなることかとこっちも息を殺していたんです。いたら、いきなりぱんぱんと笑いだしたんで、気が遠くなったんですよ。あっしがここにおったら、なにがどうしたというんです」
「どうもしねえさ。岡の三庵先生は何商売だったっけな」
「医者じゃねえですかよ」
「医者なら、血があったって不思議はねえだろう」
「だれも不思議だといやしませんよ。おできも切りゃ、血の出る傷も手当をするのがお医者の一つ芸なんだ。医者のうちに血があったら、なにがどうしたというんですかよ」
「血をいじくるが稼業《かぎょう》なら、血を始末するかめかおけがあるだろうというのさ。どう考えたって、あの床の間へ降った血は、外から忍びこんできたいたずらのしわざじゃねえ。たしかに、あの家の者がやったにちげえねえんだ。
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