。早くいらっしゃい。来なければしかりますよ」
 せつなです。名人主従は、引き入れられるようなその声につられて、われ知らずにさっと身を起こしました。しかし、同時に、右門も伝六も、おもわずぞっと身の毛がよだちました。
 へびです。へびなのです。大きなねずみをあんぐりとくわえて、位牌の間から長いかま首をぬっともたげながらのぞいているのです。
 いましがたちゅうちゅうと鳴きもがいたのは、じつにそのかま首がくわえているねずみなのでした。なまめかしい声で今、千萩が話をした相手も、そのへびなのでした。お櫃の中の正体も、またその長虫なのでした。
 へびを飼う娘!
 へびと話をする娘!
 意外な秘密を隠していた奇怪なお櫃《ひつ》は、意外ななぞを生んだのです。とみるまに、長虫はあんぐりとねずみをくわえたままで、ぬるぬると千萩の足もとへはいよると、なにかの化身のようにかま首をもたげながら、黒光りしている長いからだをその足へしきりとすりつけていたが、そのままするするとお櫃の中へはいこみました。
 伝六はもとよりのこと、さすがの名人も全身あわつぶだって、そこへ立ちすくんだままでした。それにしても、あの床の間へ降
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