をしたやつがおったら、軸を見ただけでもぴんと胸を刺されるにちげえねえんだ。胸を刺されりゃ、自然と顔のいろも変わろうし――」
「足も震えるだろうし――」
「それだけわかってりゃ、なにも首なんぞひねるがものはねえじゃねえかよ。ほかの者はみんなけげんそうな顔をして降りていったが、あの娘だけが震えていたんだ。ばかりじゃねえ。おまえさんはあの娘の顔と親たちの顔を比べてみたかい」
「いいえ、自慢じゃねえが、あっしゃそんなむだをしねえんですよ。べっぴんはべっぴんでけっこう目の保養になるんだからね。しわくちゃな親の顔なんぞと比べてみなくとも、ちゃんと堪能《たんのう》できるんですよ」
「あきれたやつだ。だから、伝六でんでんにしんの子、酒のさかなにもなりゃしねえなんぞと、子どもにまでもバカにされるんだよ。とびがたかを産んだという話はきくが、おやじの三庵はあのとおりおでこの慈姑頭《くわいあたま》、おふくろさんは四角い顔の寸づまり、あんな似たところのねえ親子なんてものはありゃしねえ。不審はそれだ。娘のことを探るのは娘どうし、その娘っ子の寄り集まるところといや、まずてっとり早いところがお針のお師匠さんじゃねえか
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