カ所きりでござります」
「夜はどなたが二階におやすみでござるか」
「どうして、どうして、見らるるとおりこれは自慢の客間でござりますのでな。寝るどころか、家人のものもめったにあげませぬ。この下がてまえども家族の居間に寝間、雇い人どもは向こうの別棟でござります」
「その雇い人はいくたりでござる」
「まず代脈がひとり、それから書生がふたり、下男がひとり、陸尺《ろくしゃく》がふたり、それに女中がふたり」
「うちうちのご家族は?」
「てまえに、家内、それから娘、それから――いいや、いいや、それだけじゃ、ことし十九になる娘がひとりきりでござります」
「しかとそのお三人か!」
「まちがいござりませぬ。天にも地にも娘がひとり、親子三人きりでござります」
「別棟からの廊下は筒ぬけでござるか。それとも、なにか仕切りがござるか」
「大ありでござります。なにをいうにも、表のほうへは、朝から晩までいろいろの病人が出はいりしますのでな、奥と表とごっちゃになって不潔にならぬようにと、昼も仕切り戸で仕切って、夜は格別にきびしく雇い人どもへ申し渡してありますゆえ、この二階はおろか、奥へもめったには参られませぬ」
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