かりませなんだが、紛失するといっしょに大口様がふいっと国もとから姿を消しましたゆえ、はておかしなこともあるものじゃと、不審に思っておりましたところ、人のうわさに、まもなく当加賀家へ祐筆頭《ゆうひつがしら》としてお仕官なさいましたと聞きましたゆえ、変死を遂げた夫ともども、わたくしたちも国を離れて、つてを求め、同じこの加賀家に仕えまして、内々探っていたのでござります。ところが、ようやく二、三日まえになって、その証拠があがり、あまつさえたいせつなすずりはこの依田様のところへ、祐筆頭に取りなしてもらったお礼がわりの進物として贈られているということがわかりましたゆえ、どうぞして取り返そうと、夫ともども心を砕いておりましたところ、じつに大口様は人外なおかたでござります。その夫を、あろうことか、あるまいことか――」
「よし、それでわかりました。あばかれては身は破滅、いっそ毒食わばさらまで、事の露見しないうちに、やみからやみへ葬ろうと、依田の重三郎に力を借りて、あのとおり雪で焼き殺したというのでござりまするな」
「ではないかと存じまして、けさ早く変死を遂げておりましたのを知るといっしょに、あの絵図面をわたくしが書きしたためまして、あのふびんな死にざまをなさいましたおかたに、あなたさまのところへ、飛んでいっていただいたのでござります。さっそくにお出役くださいましたゆえ、もうだいじょうぶと心ひそかに喜んでおりましたら、依田様もいいようのない人非人でござります。秘密を知られてはならぬと、あの鐘楼の上から恐ろしい矢を射かけたのでござります。そればかりか、ふたりでしめし合わせて、このわたくしをこんなところへ、手ごめ同様に押しこめ、妻になれの、はだを許せのと、けがらわしいことばっかり、今まで責めさいなんでいたのでござります。わたくしには何から何までのご恩人、ただもううれしくて、あなたさまのお顔も見ることができませぬ。お察しくだされませ」
言うまも悲しみ喜び、いちどきにこみあげてきたとみえて、おこよはよろめきながら床の間へ近づくと、子持ちすずりの桐箱を抱きすくめるように取りあげて、おろおろと泣きつづけました。
「ちくしょうめッ。これで伝六様も早腰を抜かさずに済んだというもんだ。これからが忙しいんだ。野郎どもはなわにするんでしょうね」
「決まってらあ。ふたりとも並べてつないで引っ立てな!」
立
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