ぬというなら格別、おれじゃ、わしじゃ、おまえではない、うぬではないと言い争って罪を着たがるゆえ、拷問好きの敬四郎どのも痛しかゆしのていたらくで、ことごとく手を焼き、日を見ておりを見てと、入牢させておいたのがこのような朋輩《ほうばい》殺しになったのじゃ。何から何まで不審ずくめでござるからのう。どうなることやら、困ったことでござる」
 いかさま、不審ずくめです。
 いかに主家への忠義だての罪であったにしても、互いに罪を奪い合うのがそもそもの不審でした。
 ましてや、その一人が他を殺すにいたっては、捨ておかるべきではない。不審のもとは、これは両替屋鈴文にあるのです。
「あにい! 茅場町だッ」
「駕籠《かご》ですかい!」
「決まってらあ!」
「ありがてえ! これでもちがつけらあ。さあこい! 野郎! あば敬の大将、そこらからひょこひょこと出るなよ。めんどうだからな。――へえ、御用駕籠です! はずんで二丁だ。かんべんしておくんなせえ。いいこころもちだね。飛ばせ! 飛ばせ」
 ひとかど、ふたかど、四かどと曲がらぬうちに、もうその茅場町でした。

     3

 なるほどある。
 古いのれんに、すず
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