、こんな騒動のもととなったのでござります。なれども、娘のすきなのはあの梅五郎、きらいな豊太と末始終いっしょにならねばならぬようなことになってはと、娘がひどく苦にやみましたゆえ、ええ、めんどうだ、ついでのことに豊太を眠らせろと、この親バカのおやじが悪知恵をさずけて、梅五郎に刺し殺させたのでござります。しかし、あいつはぎっちょ、そんなことから足がつかねばよいがと、じつは内心胸を痛めていたんでございますが、なにがもとでばれましたやら、恐ろしいことでござります。主家を救うための使い込みと申し立てさせたのもみんなこの新助の入れ知恵、そんなことにでも申し立てたら、いくらか罪も軽くなり、なったら早くご牢《ろう》払いにもなることができましょうとの魂胆でござりました。恐れ入りましてござります……」
「そうだろう。おおかたそんなことだろうと思っていたんだ。せっかくしりをぬぐってやって、ほねおり損だが、こんなしみったれのてがらはほしくねえ。のしをつけて進上するからと、すまぬが源内どの、敬四郎先生のところへだれか飛ばしてくれませぬか。不審のかどは丸くとれましたといってな。そのかわり、だいじなさばきだけを一つつけておいてあげましょう。――おやじ、千百三十両は鈴文さんに成り代わっておいらがもらってやるぜ。利子をどうの、両替賃をいくらつけろのと、はしたないことをいうんじゃねえ。元金だけでたくさんだからな。それだけありゃ、鈴文の店ののれんもまた染め直しができるというもんだ。伝六、おめえひとっ走りいって、あのしょぼしょぼおやじの顔のしわをのばしてきてやんな!」
「心得たり! さあ、これでもちがつけるんだ。とみにうれしくなりやがったね。一句飛び出しやがった。――もちもちと心せわしき年の暮れ、とはどうでござんす」
風がつめたい……。
底本:「右門捕物帖(四)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:M.A Hasegawa
2000年3月3日公開
2005年9月24日修正
青空文庫作成ファイル:
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