りやがった。それにしても、ご信心のお善女さまが、遠い川下の船宿からこっそり通うのがふにおちねえ。まして、夜参りするたアなおさら不思議だ。どこかにはいるところはねえか捜してみな」
 しかし、どこにもない。あっても、門はぴしりと締まって、水門から消えた舟もはいったきり、その水門もまたぴたりと締まって、へいをのり越えるよりほかに、中へ押し入る道はないのです。
「めんどうだ。猿《えて》のまねをしてやろうぜ。船頭、舟をあの横の石がきへつけなよ」
 ひらりと飛びうつると、えっとばかり気合いをころして身をおどらせながら、築地《ついじ》づくりの高べいへ片手をかけたかとみるまに、するするとぞうさもなくよじのぼりました。その足につかまって、伝六もよたよたとよじのぼりました。
 中は予想のほかに広いのです。
 拝殿らしいのが前にひと棟《むね》。
 内陣とおぼしき建物がその奥にひと棟。
 渡殿《わたどの》、回廊、社務所、額殿《がくでん》、祓殿《はらいでん》、それに信者だまり、建物の数は七、八つも見えました。内庭にはまた水門から堀がつづいて、船頭たちはどこへ姿を消したか、ぬしのないしめなわ舟がなぞのごとくに見え
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