って、これがほしいんだろう。よくよくあいそのつきるやつだ。しようがねえから、三両やるよ。早くいって出してきな!」
「うへへ……かたじけねえ! 話せるね、まったく! ちょいとひとなぞ遠まわしに店をひろげると、たちまちこのとおり、ものがおわかりあそばすんだからな。だんなさまさま大明神だ。だから、女の子がぽうっとくるんですよ」
「ろくでもねえおせじをぬかすない! とっとといってくりゃいいんだよ。おいらさきに行くから、あとから来るんだぜ。いいかい、柳橋の川増だ。とち狂って、また吹き矢や玉ころがしに行っちゃいけねえぜ」
「いうにゃ及ぶだ。殺した一|張羅《ちょうら》が生きてかえるとなると気がつええんだからね。だんなこそ、吹き流されちゃだめですぜ。いいですかい。まっすぐ行くんですよ……」
 ときあるごとに何か一つずつ事を起こさないと納まりのつかない男です。伝六を残してひと足さきに右門がその柳橋の川増へ行きついたときはちょうど六ツ。数寄屋橋《すきやばし》、呉服橋、南北両ご番所の同役同僚たちの顔が、もう八分どおり座に見えました。
 与力、同心、岡《おか》っ引《ぴ》き、目明かし、手先、慰労の宴の無礼講だか
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