がおなくなりになりましてから二年このかた、小石川の伝通院裏にご隠宅を構えて、若党ひとりを相手に、ご閑静なお暮らしをしていらっしゃるとかのことでござります。この品もそちらへお届けいたしました」
「よし、わかった。口外するでないぞ。――駕籠屋《かごや》! 伝通院裏じゃ」
なぞの道は、はしなくも紅糸二本から解けかかってきたのです。
「ありがてえね。ちゃんとこういうふうに骨を拾ってくださるんだからな。お眠くはござんせんかい。お疲れなら肩でももみましょうかい」
「つまらねえきげんをとるな。駕籠に乗って肩がもまれるかい」
「いいえね、もめねえことは万々わかってるんだが、気は心でね。これでもあっしゃ精いっぱいおせじを使っているんですよ。――そらきた。伝通院の裏に二つはねえ。あの三軒のどれかですぜ」
たぶんそのあたりだろうと見当をつけていってみると、案の定、いちばん奥が捜し求めたその隠宅でした。隠宅というとふた間か三間の小さな家にきこえるが、法眼《ほうげん》といえば位は最上、禄《ろく》は百五十石、はぶりをきかした大奥仕えのお鍼医《はりい》の未亡人がこの世を忍ぶ住まいです。門の構え、広い庭、むしろ邸
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