だけでござります」
「なに、女! いつごろじゃ!」
「死骸《しがい》のなくなるちょっとまえでござります」
「それみい! そういうたいせつな言い落としがあるゆえ、きいているのじゃ。女はどんなやつだ」
「いいえ、その女は何も怪しいものではござりませぬ。年のころは二十七、八でござりましょうか。お高祖頭巾《こそずきん》で顔をかくした品のよいお屋敷者らしい美人でござりましてな。この裏の大御番組の柳川様をたずねてきたが、気味のわるい男が四人ほどあとをつけていて離れぬゆえ、追っ払ってくれと駆けこんできたのでござります」
「どこからのぞいた。裏か、表か!」
「あの裏口からでござります。のぞいてみると、なるほど四、五人、路地の奥に怪しい影が見えましたゆえ、三人してちょっと追っ払ってやっただけでござります」
「よし、わかった。アハハ、しようのないやつらだのう。追っ払って帰ってきたら、死骸がとっくになくなっていたろうがな」
「そうでござります。ついさきほどまでちゃんとあったのに、もう見えませなんだゆえ、にわかに騒ぎだしたのでござります」
「あたりまえだ。いつまで死骸が残っているかよ。六つ目玉を光らしているま
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