盗み出し、あまつさえ同じ枝にまたぶらさげてあったというのは、さらに不思議です。
「よしッ。すぐに参ろう。ご苦労じゃが、駕籠のしたくさせてくれぬか」
うちのるや、ひたひたと一足飛びに走らせました。
3
「じゃまだ、じゃまだ。道をあけな!」
「御用|駕籠《かご》なんだ。横へどきな!」
景気をつけていっさん走りに急ぐ駕籠にゆられながら、名人もしきりと先を急ぎました。
どう考えてみても、こんな不思議はない。目も放さずちゃんと見張っていたのに、その目の前で死体が紛失したというのも不思議です。それが五体ともに、またゆうべと同じ松、同じ枝につるしてあったというのは、さらに奇怪です。あまつさえ、伝六が出たっきり帰らないというのも、不思議のうちの不思議でした。
「まだ柳橋へかからぬか」
「珍しくお急《せ》きですね。もうひとっ走り――、参りました! 参りました! ちょうどいま柳橋ですが、これから先はどっちでござんす」
「北鳥越《きたとりごえ》じゃ。自身番へやれッ」
何はともかく、ゆうべのいつごろ、どんなふうにして盗み出されたか、それを詳しく洗ってみるのが事の第一です。
「あッ。ようこ
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