小屋へ運んできそうなものなのに、まもなくから舟をまた返しに来たんでね。妙なことをしやがると思っていたら、首尾の松に五人、ぶらりとさがっていると聞いたんです。お尋ねはそれじゃござんせんかい」
「まさしくそれだ! どんな人相をしていたか覚えないか!」
「そいつがあいにく、怪しいやつらたア気がつかなんだものだからね、なに一つ見覚えがねえんですよ」
「風体はどうだ!」
「それもうっかりしていて気がつかなかったんですよ」
「せめて年ごろにでも覚えはないか」
「それさえさっぱり覚えがねえんです。なんしろ、月はまだあがらず、薄暗いところへもってきて、向こうははじめっからそのつもりだったか、顔を隠していやがったんでね。気のついたこたアなんにもねえですよ」
 名人の手は、知らぬまにあごをなではじめました。ぞうさなく開けかけたかと思った道は、突如として深い霧の中へ隠れてしまったのです。にらんだとおり、土左舟を借りに来たその者たちが、あの五人を運んだにちがいない。おそらく、はしごでもいっしょに積んでいって、あの枝にかけたことは疑いない。
 しかし、わかったことはただそれだけなのです。どこから死体を運んできた
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