見せかけたにちがいないことも、またすでににらんだとおりでした。だが、あのとおり、つりさがっていた場所は、幹から運んでいくのはもとよりのこと、尋常ではのぼってもいかれないような枝の先なのです。むろん、それから察すると、十中十まで舟で運んで、舟からあの枝へなにか細工をしたことは疑いのない事実でした。しかし、運んだものは死体です。なによりも縁起をかつぐ荷足り舟や伝馬船《てんません》が、縁起でもない死体をのせたり運んだりするはずはないのです。十中十まで土左舟であろうとにらんだればこそ、夜あかしを覚悟のうえでわざわざ詮議に来たのでした。
「なるほど、そうでしたかい。えへへ……さあ、ことだ。べらぼうめ。急に腹が減ってきやアがった。さあ、忙しくなったぞ」
 ようやくに伝六も知恵が回ったとみえて、弁当をわしづかみにしながら飛んできたのを、名人はにこりともするもんではない。そしらぬ顔にふり向きもせずずかずかと土左舟に近づくと、穏やかに呼びかけました。
「毎晩毎晩奇特なことじゃな。お役舟か。それとも、特志の舟か。どっちじゃ」
「但馬屋《たじまや》身内の特志舟でござんす」
「そうか、ご苦労なことだな。揚げて
前へ 次へ
全56ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング