っしゃい。お駕籠の用意はできているんですよ」
「何丁だ」
「うれしくなったからね。あっしが手銭を気張って、二丁用意したんですよ」
「一丁にしろ」
「へ……?」
「一丁返せというんだよ」
残ったその一丁に乗るかと思うと、そうではないのです。ぶらりぶらりと自分はおひろいで、から駕籠をあとに従えながら、神田へ行きついたのが暮れ六ツ少しすぎでした。
丸屋のほうへまず先にはいってみると、案外にもしいんとしているのです。かせぎを終えて帰った二十六人が親方たちに守られながら、ぶらりとさがっている二枚の着物を遠巻きにして、こわいものをでも見るようにながめているのでした。
「こっちじゃねえや。獲物は越後屋の網と決まった。いってみな」
その越後屋へはいると同時に、騒がしいわめき声ががやがやとまず耳を打ちました。二階へ上がっていってみると、つりさげてある二枚の着物のまわりに角兵衛たちがまっくろくたかって、わき返っているさいちゅうなのでした。
「こいつおれんだ。おれの着物だ。おれはそんな人殺しなんぞやった覚えはねえよ」
「じゃ、だれだ、だれだ、だれがやったんだよ」
ひょいとみると、ひしめきたっているそ
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