んだよ! まねごとでいいんだ! よしなよ! よしなよ!」
 必死に叫んだが、いまさら止まるはずはない。伝六ごときが、そもそも馬に乗ったのがまちがいなのです。
「一大事だ、一大事だ! だんな、だんな、止めておくんなさいよ。伝六の一大事なんだ。早くなんとかしておくんなさいよ!」
「うまい、うまい。腰つきがなかなかみごとだぞ」
「まずくたっていいですよ! はやしたてりゃ、くろめがよけいずにのって走るじゃござんせんか。よしなよ! よしなよ! くろ! おまえもあんまり薄情じゃねえか! わかったよ、わかったよ! そんなにむきになって走らなくとも、おまえの走れるのはもうわかったんだ。よしなったら、よさねえかよ!」
 なだめすかしても聞かばこそ、くろは必死にしがみついている伝六を背中に乗せて、ひた走りに走りつづけました。お馬場は川に沿って細長く七、八町つづいているのです。
 ぴゅうぴゅうとうなりをたてんばかりに走りつづけて、その細長いお馬場の行き止まりまであともう一、二町と思われるあたりまで駆けすすんだとき、とつぜん、ちょこちょこと横から飛び出した影がある。
 十一、二ぐらいの少年なのです。しかも、手
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