いろうとしたのを、
「あわてるな!」
 小声で鋭く名人がしかりました。
「少し甘口なことをいってやると、じきにおまえはうれしくなるからいけないよ。相手はあまり筋のいい顔役じゃねえ。見せ物小屋のなわ張り株を持っているとすりゃ、切った張ったの凶状ぐれえ持っているかもしれねえから、もっと相手を見て踏ん込みなよ。ふらふらはいって逃げでもされたらどうするんだ。こっちへ来な」
 そこの庭口のくぐりからはいって、こっそりと内庭へ回りました。
 とっつきにごろった[#「ごろった」に傍点]べやがあって、若い者のごろごろとした影が見える。
 ポーン、ポーンとつぼを伏せる音がきこえるのです。
 ひらりと上がって不意にそのへやへ押し入ると、静かに浴びせました。
「朝っぱらからいたずらしているな。松長はどこにいるんだ」
「…………?」
「パチクリしなくともいいんだよ。おまえらの親分はどこにいるんだ。うちか、るすか」
 答えないで、若い者たちは、あっち、あっちというようにあごをしゃくりました。
「どこだよ。奥か!」
 そうです、そうですというように、やはり答えないで、またあごをしゃくりました。
「変なやつらだな、
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