七百金という小判を、あの女がなぜに埋めさせようとしたか、そこに不審がある。疑惑がある。どういう金であるか。なぜにそれほどだいじな小判であるか、なぜに埋めて隠して人目を恐れねばならぬか。そこに疑惑がある。不審があるのです。
目がきらりと光ると、鋭い声が飛びました。
「あの女房について、何か知っていることはないか!」
「そうですね。やかましやの、きかん気の、亭主をしりに敷いている女だということは町内でも評判だからだれも知っておりますが、ほかのことといったら、まず――」
「何かあるか!」
「昔、吉原《よしわら》で女郎をしておったとかいうことだけは知っておりますよ」
「なに! 女郎上がり! どうしていっしょになったか知らぬか。あのおやじが身請けでもしたか!」
「さあ、どうでござんすかね。両国の河岸《かし》っぷちに見せ物小屋のなわ張り株を持っている松長ってえいう顔役がありますが、その親分が世話をしたとか、口をきいていっしょにしたとかいう話ですから、いってごらんなさいまし」
「おまえ、そのうちを知っているかい」
「おりますとも、よく知っておりますよ」
「よしッ。話し賃にかせがしてやる。早いところ
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