と、やっぱりあぶない、もっとどこかほかの寺へやってくれろというんでね、今度[#「今度」は底本では「今年」]は浅草へいったんでござんす。ところが、そこのお寺もやっぱりいけない。川を渡って本所へいって三カ寺回ったが、そこもいけない、いけない、いけないで、神田へまた舞いもどってきたら、とうとう夜が明けちまったんですよ。こっちもきつねにつままれたような心持ちでござんしたが、米屋のおやじさんもぼんやりとしてしまって、鍬と包みを背負いながらにやにや笑っていらっしゃるからね。何がいったいどうしたんでござんす、といってきいたら、いうんですよ。顔なじみのおまえたちだから打ち明けるが、あんな無理をいう女房ってえものはねえ。この金をどこか人に見つからねえところへこっそり埋めてこいといわれたんだが、江戸じゅうにそんなところがあるもんけえ。どこもかも見つかりそうであぶねえところばかりじゃねえか、とこういってね、この受け取りを作らせてお帰んなすったんですよ」
右門の目がきらりと光りました。
米屋のおやじ弥五右衛門の身辺を包んでいた不審の雲はからりと晴れたが、はしなくも、ここに今、新しい不審がわいてきたのです。
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