ござりまするか、――お初にお目にかかります。いいえ、もう恥ずかしがるところはござんせんよ。お嫁にいらっしゃった晩はどなたもそうなんでございますからね。わたくしだっても、今はこんなに年が寄りましたが、昔はやっぱりお嫁にもいきましてね。そうですとも! ええ、ええ。万事このばあやが心得ておりますから、ちっとも恥ずかしいことなんかござんせんよ。じきにもうだんなさまがかわいくなりましてね。ええ、ええ、そうですとも! そうですとも!」
「もういいよ! ばあや! そんなにつべこべといろいろなことをいえば、よけい恥ずかしくなるじゃないか。早くしたくをおやり」
「はいはい。では、まずお湯のかげんでも見てまいりましょうよ、あちらでごゆっくり――」
変わった趣向といえば変わった趣向でした。
男は名を幸吉、もちろん林幸の店の若だんなでした。
新嫁《にいよめ》もまた同じ町内の同じ薬種問屋の妹娘で名はお冬。
秋にしたらいいだろうというのを幸吉がせきたてて、この夏のさなかに式を早め、それがちょうどゆうべのことなのです。早めて式をあげたはいいが、話のとおり日本橋のほうでは人目もうるさいし、何やかやとまだごたつ
前へ
次へ
全48ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング