み入っているゆえ、ぶくぶくとあわだつのでござります。アハハハ……幽霊の正体見たり枯れ尾花とはまさにこのこと、これなる扇子と懐紙入れがあの一カ所から離れなかったのも、かしこの水がうずというほどのうずでないうずを巻いているため、水もろとも穴の底に引きつけられて、ぐるぐるあのまわりを漂っていたに相違ござりませぬ」
「いかさまのう。なぞが解ければ恐るるところはない。どこかほかのところに骸《むくろ》が沈んでいるはずじゃ。手を分けて残らず捜してみい」
蔵人の下知とともに、水練自慢の足軽たちが、にわかに活気づいていっせいに飛び込もうとしたのを、
「いや、お待ちなされませい!」
何思ったか名人が呼びとめると、上と下との濠の境の水門のあいているのをいぶかしげに見ながめていたが、ぶきみなくらいな右門流がだんだんと飛び出しました。
「あの水門は?」
「何がご不審じゃ?」
「いつもは締まっておるはず、どうしてあいておるのでござります?」
「なるほど、あれでござるか。長つゆで上の濠水が増したゆえ、土手を浸さぬようにとあけさせておいたのじゃ」
聞くや同時です。莞爾《かんじ》としてうち笑《え》むと、名人が意外
前へ
次へ
全44ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング