手には合いませぬ」
組頭蔵人はじめ三宅平七たち五人の者は、目と目を見合わせながら、いずれもぞっと水をでも浴びせられたように、えり首をすぼめました。
怪しいものがないというのに、ぶくぶくとあわがたっているはずはない。しかも、疑問のふた品が岸へ揚げられるまで、ぶきみなその一カ所の周囲ばかりを、底に引く糸でもあるかのごとく漂って離れなかったのが不思議です。
「そんなバカなはずはない。寄りつけないというはずがない。だれぞ勇を鼓して、いまいちどくぐる者はないか」
「…………」
「戦場と思うたら行けるはずじゃ。だれもおらぬか!」
よくよく恐ろしかったものとみえて、裸男たちが声もなく顔見合わせているとき、
「えへへ。みなさんご苦労さま。ただいまはごていねいに早馬をいただいて、あいすみませんでしたね」
姿より先に、かしましい声を飛ばせながら、大道せましと右に左にからだを振って、霧の中をこちらへ駆けつけてきたのは、
あの男です。
あとから静かにむっつりの名人……。
2
「これはようこそ」
組頭《くみがしら》蔵人《くらんど》、それを見るといんぎんでした。
「わざわざお呼びたてつ
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