ゅう思われるゆえ、まずあそこへくぐってみい」
 いずれも水練自慢とみえて、たくましやかな五体をおどらしながら、さっといっせいにもぐりました。
 しかし、まっさきにもぐって、まっさきにあわの下へいったのが、まっさきにまっさおな顔で浮き上がってくると、不思議なことをいったのです。
「いのちには替えられませぬ。あそこばかりは二度ともう――」
「たわけッ、いのちに替えられぬとは何をいうかッ。いいや、なんのためにお禄米《ろくまい》をいただいているのじゃ。もいちど行けいッ」
 しかりつけてくぐらせようとしたとぎ、ふたりめ、三人め、四人め、五人めと次々に浮かび上がると、いずれも同様に色を失いながらいうのでした。
「あそこばかりは二度ともう――」
「うぬらもかッ」
「でも、気味がわるくて近よれませぬ」
「死骸《しがい》か! 死骸が気味わるうてよりつけぬと申すかッ」
「いいえ、何もござりませぬ。死骸はおろか何一つ怪しいものは見えませぬのに、どうしたことか、あそこへ近よりますと身のうちが凍えるように冷たくなりまして、ぐいぐいと気味わるく引き入れられそうになりますゆえ、いかほどしかられましても、てまえどもの
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