この男、旗本の次男でまだ二十三になったばかりだが、諸事みな采配《さいはい》ふるって、なかなかおちついているのです。
 あちらへ漂い、こちらへ漂っているふた品を見ていると、どうも少し変なことがある。濠のまんなかごろのある一カ所から、間をおいてときどき思い出したようにぶくぶくとあわが浮きあがって、さながらそのあわの下に何か気味のわるい秘密でもあるかのように、ふたつの品がまた浮き漂いながらも、その一カ所のぐるりを離れないのでした。
「死骸《しがい》!」
 もしもそこに品物の持ち主の死骸が沈んでいるとするなら、怪談ものです。ふたつの品に何かのぶきみな怨念《おんねん》でもが残っていると思うより思いようがない……。
 いやなことには、まだ霧がなかなか晴れないばかりか、注進にいったものたちの帰りもおそいのです。
 待ち遠しい四半刻《しはんとき》でした。
 ぶきみな思いをしながら待ちあぐんでいたところへ、前後して三騎がはせ帰ってくると、城内屯所へいったのが馬上から呼び呼び伝えました。
「城外へ漏れてはならぬゆえ、そのことくれぐれも心して、たち騒がずに見張りせいとのお達しじゃ。お組頭はあとからいますぐ参
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