ねえからね、口もとの明るいうちにとっとと帰ってくんな!」
 パンパンとはぜるようにまくしたてられて、ぼうぜんと目を丸めている可賀をあとに、伝六、名人二つの御用駕籠は、時を移さず神田鍛冶町へはせ向かいました。
 表通りはなかなかの構えで、柳営御用|槍師《やりし》と、なるほど大きな看板が見える。
 案内を請うてはいるような名人ではない。ホシとにらめば疾風迅雷、ずかずかとはいっていくと、
「あッ……」
 姿を見ると同時に、かすかなおどろきの叫びをあげながら、奥座敷目がけて逃げはいろうとした女の影がちらりと目にはいりました。せつな――。
「しゃらくせえや。おれを知らねえかよ」
 伝六、じつに生きがいいのです。押えているまに、名人はあちらこちらそれとなく見ながめたが、ほかにはひとりも家人の姿はない。親の行徳助宗がいないばかりか、かりにも将軍家御用槍師といえば、弟子《でし》の二、三人ぐらいはもとよりのこと、下働きの小女も当然いるべきはずなのに、どうしたことか、ひとりも見えないのです。
「この様子では、ちと手数がかかりそうだな。よしよし、伝六、相手はお女中だ。手荒にするんじゃねえよ」
 制しておいて
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