ずからその手順がたつというものである。
第一は、まず殺された若侍が何者であるか、その身もと詮議でした。
第二は、扇子と懐紙入れの持ち主が何者であるか、その穿鑿《せんさく》でした。あるべきはずのないところに、あるべきはずのない品が浮いていたとすれば、そのふた品の持ち主たる女が、少なくもこの毒殺に重大な糸を引いていることは確かです。
服装もしらべてみると、紋服、はかま、べつにこれといって変わったところはないが、腰に二つのさげ物がある。
一つは城内出入りのご門鑑。これがあるからには、お城仕えをしているものであることが明らかでした。
いま一つは、印籠《いんろう》のようなさげ物です。しかし、印籠ではない。形は丸筒、生地は竹、塗りは朱うるし、緒締めのふたがあって、中をしらべてみると、刀剣の手入れにはなくてかなわぬ紅絹《もみ》の打ち粉袋がはいっているのです。――同時に、名人のさえた声が放たれました。
「お刀番でござりまするな」
「なに! お刀番?――お刀番出仕のものなら、てまえ知らぬでもない。死に顔をよく拝見いたしましょう」
三宅平七が進み出て、形相もぶきみに変わった死に顔をしげしげ見しらべていたが、おどろいたように叫びました。
「まさしく、中山|数馬《かずま》じゃ!」
「存じ寄りのおかたでござりまするか!」
「話したことも、つきあったこともないが、てまえの叔父《おじ》が富士見ご宝蔵の番頭《ばんがしら》をいたしておるゆえ、ちょくちょく出入りいたしてこの顔には見覚えがある。たしかにこれはご宝蔵お二ノ倉の槍《やり》刀剣お手入れ役承っておる中山数馬という男じゃ」
身分身もとはわかったのです。残るは扇子と懐紙入れふた品の穿鑿《せんさく》でした。もとより、この持ち主が女たるに疑いはない。しかし、このふた品の持ち主が、ただちに下手人であるかどうかは、即断のできないことでした。所有主そのものが下手人だったら、いうまでもなく、死体を沈めるとき、あやまって懐中から落としたものに相違ないが、他に意外な犯行者があって、罪をこのふた品の所有主に負わせるために、わざわざ死体もろとも、濠へ投げ入れたものとも考えられるのです。
もし、下手人そのものが知らずに落としたとするなら、外から来たか、内から来たか、この死体を沈めに来た女の身分素姓、居どころに眼《がん》をつけるが事の急でした。
問題はそ
前へ
次へ
全22ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング