疑問はその一点。解決のかぎもまたその一点。
「たまらねえね。こういうなぞたくさんの変事になると、知恵蔵もたくさんあるが、切れ味もまたいいんだから。え? だんな。遠慮はいらねえんだ。ちょっくら小手しらべに、正宗《まさむね》、村正《むらまさ》、はだしというすごいところをお目にかけなせえましよ」
「うるさいよ」
「へ……? これっぱかりしゃべってもうるさいですかね。お将軍さまのお寝間へちけえと思って、大きに遠慮しているつもりなんですがね。あっしがものをいうと、何をしゃべってもうるさいですかね」
「それがうるさいというんだ。黙ってろ」
 しかっておいて、静かにあごをなでながら考えつめていたが、一筋一筋となぞのもつれ糸がほぐれだしたとみえて、ぼんやりとたたずんでいた足軽たちのところへ穏やかに声が向けられました。
「大小の重みぐらいで今までこの死体の浮き上がらなかったのがいかにも不思議、どろへはまっておったと申されたが、どのくらい深くうずまっておりましたか」
「一尺ほどでござりました。いや、もっと深かったかもしれませぬ。両方のたもとに大きな石がふたつずつはいっておりましたのでな、頭をさかさまにめりこんでおりましたよ」
「なに! さかさまにめり込んでおりましたとのう! どうやらそのぶんでは、まず十中八、九――」
「乱心ざたの入水か!」
「いえ、おそらくさようではありますまい。よしやどろが深かったにしても、頭をさかさまにしてはまっておったというのが不思議。ましてや、二本差す身でござります、入水などと恥多い死に方をするはずござりませぬ。何か容易ならぬ秘密がありましょうゆえ、さしでがましゅうござりまするが、ともかく死体を一見させていただきましょう」
 近寄って見しらべていたその目が、死人の口もとへそそがれるや同時です。きらり、名人の目が鋭い光を放ちました。
 変なものがある! 口中にいっぱい黒いものが詰まっているのです。どろか? ――小柄《こづか》の切っ先で食いしばっていた歯を、ぐいとこじあけてみると、血だ! どろかと思われるような、どす黒い血のどろどろと固まったのが、口中いっぱいに含まれているのです。
「案の定――」
「毒死か!」
「さようでござります。一服盛ってから、石の重りをつけて沈ましたものに相違ござりますまい。事がそれと決まりますれば――」
 詮議《せんぎ》の筋道もおの
前へ 次へ
全22ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング