とは、お番所を出るのに一町と隔たってはいなかったのに、しかも双方ともにその目ざしたところは、孫太郎虫売り娘殺害の現場と思われたのが、途中でひょいとふり返ってみると、右門の駕籠も伝六の駕籠も、いつのまにどこへ消えていったか、かいもく姿がないのです。
 ひとてがらしてやろうと先手を打って飛び出しただけに、敬四郎、心中はなはだ気味わるく思ったにちがいない。手下の直九郎、弥太松《やたまつ》ふたりを、がみがみどなりつけました。
「ぼんやりしているから、ずらかられちまったんだ。どっちへ曲がったか捜してみろ」
「捜しようがねえんですよ。どこまで姿があって、どこから消えたものか、それがわからねえんだからね」
「文句をいうな! 手下がいのねえやつらだ。所をよく聞かなかったが、人殺しゃどこだといった」
「おどろいたな。あっしどもは、だんなが飛び出したんで、そりゃこそてがら争いとばかり、あとをついてきただけなんですよ」
「いちいちとそれだ。もっと万事に抜からぬよう気をつけろい。たしか北条坂とかいったが、その北条坂はどの辺だ」
「ここがそうなんですよ」
「そんならそうと早くいえッ。殺されたのは小娘だといったは
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