ずだ。捜してみろッ」
 麻布もこの辺になると町家もまばらだが、人通りも少ない寂しい通りばかりです。ましてや、明け暮れ降りつづく入梅なのでした。行き来の者はまったくとだえて、見えるものはどろ道と坂ばかり……。
「おかしいな。かりそめにも人がひとり殺されたというからには、物見だかりがしているはずだ。もういっぺん坂を上から下へ捜し直してみろッ」
 三人でいま一度その北条坂を調べてみたが、人影もない。むくろもない。
「右門め、先回りをしてさらっていったな!」
 癇筋《かんすじ》をたてながらひょいと敬四郎が足もとをみると、坂の曲がりかどの、青葉が暗くおい茂った下に、小さなこも包みがあるのです。はねのけてみると、――三人同時にぎょっとなりました。こもの下には捜しまわったその小娘の死骸《しがい》が、見るも凄惨《せいさん》な形相をして、あおむけになりながら横たわっていたからです。
「これはこれは……」
 そのとき、足音を聞きつけたものか、おい茂った道ばたの青葉の陰から、自身番の小役人たちがあたふたと駆けだして、ろうばいしながらしきりと取りなしました。
「あいすみませぬ。ついそのうっかりいたしまして……ご出役ご苦労さまにござります」
「何がご苦労さまじゃッ。怠慢にもほどがあるわッ。これだけの人殺しがあるのに、ご検視の済むまで見張りをせずにおるということがあるかッ」
「つい、その……なんでござります。あんまり寂しいので、つい、その……」
「言いわけなど聞きとうないわいッ。死骸にはだれもまだ手をつけまいな!」
「いいえ」
「いいえとはどっちじゃ! だれか来たかッ。右門めでもがもう参ったかッ」
「いいえ、あなたさまがお初め、だれも指一本触れた者はござりませぬ」
「それならばそうと、はっきり申せい。手数のかかるやつらじゃ。殺《あや》められたのはいつごろか!」
「それがわかりませぬゆえ、ご出役願ったのでござります」
「ことばを返すなッ。これなる死骸の見つかったのはいつごろじゃ!」
「朝の五ツ下がりころでござります。北条坂に小娘が殺されておるとの注進でござりましたゆえ、すぐにここへ出張って、お番所へ人を飛ばせたのでござります。なにしろ、このとおり寂しいところではござりまするし、それにこの雨でござりまするし――」
「うるさいッ。きかぬことまでかれこれ申すなッ」
 あば敬のけんまく権柄、当たるべから
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