ゃ、知恵の浅い深いがおのずとわかることになるんだからね。どうですえ? 敬だんな。右門のだんなは気が長くとも、あっしゃ気がみじけえんだ。早いところどっちかにお決めなさいよ」
せきたてる伝六をいまいましげににらめつけながら考え惑っていたが、手下の直九、弥太松ふたりに目まぜを送って、さっと立ち上がると、吐き出すようにいいました。
「浅草へ行くわい! かってにせい!」
「えへへ。すうっとしやがったね。浅草へ行くわい、かってにせいがいいじゃござんせんか。くしだんごのところへ行きたくも、あば敬にゃこの判じ絵がかいもく見当がつかねえんですよ。知恵はふんだんに用意しておくものさあ。すっかりうれしくなりやがった。こうなりゃもう遠慮はいらねえんだからね。さあ、出かけましょうよ」
必死になって駆けだしていった敬四郎たちを見ながめながら、ひとりで伝六が悦に入って促したのを、
「大口たたくもんじゃないよ」
静かにしたくをしながら、名人がやんわりと一本くぎをさしました。
「偉そうな口をおききだが、そういうおまえはどうだい。みごとにこれがわかるかよ」
「へ……?」
「このくしだんごのなぞが、おまえさんにおわかりか、といってきいてるんだよ」
「バカにおしなさんな、こんなものぐれえわからなくてどうするんですかい[#「どうするんですかい」は底本では「どうするですかい」]。まさにまさしく、こりゃ墨田の言問《こととい》ですよ」
「偉い! 偉いね。おまえにしちゃ大できだが、どうしてまたこのだんごを言問と判じたんだよ」
「つがもねえ。お江戸にだんご屋は何軒あるか知らねえが、どこのだんごでも一くしの数は五つと決まっているのに、言問だんごばかりゃ昔から三つと限っているんだ。だから、この絵のところへ来いとあるからにゃ、墨田の言問へ来いとのなぞに決まっているんですよ。どんなもんです。違いましたかね」
「偉い! 偉い! 食い意地が張ってるだけに、食べもののことになると、なかなかおまえさん細っかいよ」
「えへへ。いえ、なに、べつにそれほど細かいわけでもねえんだがね。じつあ、六、七年まえに、いっぺんあそこで食ったことがあってね、そのときやっぱり三つしきゃ刺してなかったんで、ちくしょうめ、なんてけちなだんごだろうと、いまだに忘れずにいるんですよ。べらぼうめ、さあ来いだ。食いものの恨みゃ一生涯忘れねえというぐれえなんだか
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