ませぬ! だれがこんなおかわいそうなめにお会わせ申したのやら。きのうの朝でござりました。いつものとおり、お花と水を進ぜに参りましたところ、ふいっとこのお地蔵さまが消えてなくなっておりましたゆえ、わたしを捨ててどこへお逃げなさいましたやらと、ゆうべひと晩じゅう泣いておりましたら、けさほど檀家《だんか》のおかたが、ここにおいでと知らしてくださいましたゆえ、ころころと飛んでまいったのでござります」
「ほほうのう。では、それゆえなつかしゅうてなつかしゅうて、いかほどお役人がたにしかられましても、おそばを離れることができませんなんだというのでござりまするな」
「あい。そのとおりでござります。それに、このお地蔵さまたちは、うちのお師さまとは因縁の深い、だいじなだいじな守り仏でござりますゆえ、仲よしの珍念がお師さまに代わってお守り申しあげたら、さぞかしお喜びでござりましょうと存じまして、いっしょうけんめいお話し相手になっていたのでござります」
「なに! お師さまには因縁の深いお地蔵さまとのう。どんな因縁でござります?」
「どんなもこんなもありませぬ。この六地蔵さまは、うちのお寺がご本寺の一真寺さまか
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