思議なことをしておりますな」
「は……?」
不意を打たれて、いぶかるようにふり向いた若僧の姿をぎろりと見ると、年はまだ三十そこそこでありながら、その手にしている水晶の数珠《じゅず》には紫の絹ひもが通っているのです。――右門流がずばりと飛びました。
「真言宗の紫数珠は、たしか一寺一院をお持ちのしるしでござりますはず、ご住職でありましょうな」
「恐れ入りました。いかにも愚僧、当寺の住職|蓮信《れんしん》と申す者でござります。あなたさまは?」
「八丁堀の右門にござる」
「おう! そうでござりましたか。ようこそ! では、永代橋のあの一件、お詮議にお越しでござりまするな」
「さよう、この六体はまさしくあちらの分かれ地蔵とはご因縁の女人地蔵とにらみましたが、急にこのような杭垣《くいがき》設けられるとは、どうした子細でござります?」
「あのようなもったいないお姿にされては、ご寄進のかたがたにも申しわけがござりませぬゆえ、盗み出されぬようにと、こうしてきびしく囲うているのでござります。あはは。いや、まったく、用心に越したことはござりませぬ。興照寺のようなおうちゃく寺では、地蔵尊どころか、いまにご本尊
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