へ分け入る秘密の間道があるに相違ないのです。しかも、寄進についている六地蔵のその施主は、身分素姓年ごろこそわからぬ、いずれもなまめかしく艶《えん》な下町女らしい名まえばかりでした。
 故意か?
 いたずらか?
 それとも、故意はこい[#「こい」に傍点]であっても、恋のこい[#「こい」に傍点]であるか?
「えへへ。やっぱり、足まめに出かけてくるもんだね。ちくしょうめ。さあ、穏やかでねえぞ。安珍清姫の昔からあるんだ。べっぴんの若いご上人《しょうにん》さまがあって、ぽうとなった女の子があって、会いたい、見たい、添いとげたい。ままになるならついでのことに、ときどき尊い引導も授けてもらいたい、――とね。陰にこもって日参をしてみたが、生き仏さまにはとうからもう女人地蔵がついているんだ、それもこの背中の名まえどおり六人もそろってね。だから、おこぼれさえもちょうだいできねえというんで、ええくやしい、腹がたつ、憎いはこの地蔵とばかり、たちまち女の一念|嫉刃《ねたば》に凝って、こんなよからぬわるさをしたにちげえねえですよ。ええ、そうですとも! べらぼうめ。思っただけでもくやしいね。たびたびいうせりふだが、
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