門胸にたたんで、こっそりお見送り申しましょうわい」
「わかりました。参りまするでござります……」
とぼとぼと力なく足を運んで、卒塔婆《そとば》、新墓《にいばか》立ち並ぶ裏墓地を通り抜けながら、罪の蓮信坊は寺社奉行所目ざしつつ、悲しげに裏門をくぐりました。
見送りながら、右門主従も静かに出ていったその出会いがしら!
「おじさん! 八丁堀のおじさん! 珍念でござります!」
くるくると愛らしげに目を丸めながら、ころころと向こうから飛んできたのは、あの豆お小僧珍念です。
「おう! 来ましたのう! 手にささげているはなんじゃ」
「お約束のおはぎでござります。あの、あの、今度おじさんにお目にかかりましたら、お地蔵さまともご相談しておもてなしいたしますと約束いたしましたゆえ、こちらにお越しとききまして、このとおり急いで川向こうから持って参じましてござります」
「ウフフ。賢いことでありますのう。なるほど、そんなお約束をいたしましたな。では、遠慮のういただきましょうよ」
「あい。どうぞたくさん……」
くるくると愛らしく丸めながらふり仰いだ珍念の黒い小さいひとみには、うれしさ余ってか、清浄な、純真な涙の露が見えました。
底本:「右門捕物帖(三)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:福地博文
2000年6月5日公開
2005年9月23日修正
青空文庫作成ファイル:
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