、なやましく四月の夜がふけかかってきたとき、ようやくがたがたと足音までがやかましく帰ってくると、じつに意外でした。思いもよらなかったことを、やにわにまくらもとから浴びせかけたのです。
「バカにしてらあ。六人はね、そろいもそろって大年増《おおとしま》ですよ」
「へえ。年増とね。眼《がん》がちっと狂ったかな。年増もいろいろあるが、おおよそいくつぐらいだよ。三十五、六か」
「ところが大違い。五十九歳を若頭《わかがしら》にね、六十一、六十三、六十八、七十、七十三と、しわから顔がのぞいているようなべっぴんばかりですよ」
「ウフフ。あっはは。参ったね。歯の抜けた年増たア、みごとに一本参ったよ。洗ってきたのはそれっきりかい」
「どうつかまつりまして、いかにもくやしかったからね。事のついでにと思って、一真寺のお残り地蔵のほうも、六人ともにかたっぱし施主の身がらを洗ってみたんだがね。やっぱり……」
「しわ入りのべっぴんかい」
「そのとおり。しかも、金はあるんだ。いろけはねえがね、十二人とも福々の隠居ばかりなんですよ」
「…………」
「どうしたんです! 急にふいっと黙っておしまいなすったが、何かお気に入らんですかい」
「ウッフフ。二本めの道も、またもののみごとに止まったかなと思っているんだよ」
「へ……?」
「裏街道《うらかいどう》も行き止まりになったというのさ。おいらは寝るよ。あっはは。春のひとり寝はいいこころもちだ。くやしかったら、夜食でも食べにいってきなよ」
あっさりいうと、策あってのことか、思い余ってのことか、ふっくらと夜具にうまって夢の国を追いました。
3
あくる朝です。
むろん、日のあがらないうちに伝六がやって来るべきはずなのに、どうしたことか不思議と姿を見せないので、いぶかりながら、床の中であごをなでていると、こんな男というのもあまりない。おそがけにしょんぼりとはいってくると、あのいつもうるさい男が珍しく黙ってへやのすみに小さくすわりながら、やにわにめそめそとやりだしました。
「変な男だね。どうしたんだよ」
「…………」
「ウフフ。おいらのお株を奪って、きょうからはおまえさんがむっつり屋になったのかい。黙りっこなら負けやしねえんだ。五日でも十日でも、あごをなでているぜ」
「だって、くやしいからですよ」
「何がくやしいんだよ」
「うるさくがみがみとやりだ
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