ることだからね、知恵はもっと細っかくたくわえておかなくちゃ笑われるぜ」
「ちぇッ。ほめたかと思うと、じきにそれだからな。だから、女の子も気を許してつきあわねえんです。しかし、それにしちゃこのお寺、ふところにぐあいがちっと悪いようじゃござんせんかい」
なるほど、見ると、寺格の高い割合には、境内の様子、堂宇の取り敷き、どことはなしに貧しく寂れたところが見えるのです。
「くずれていやがらあ。ね、ほら、鐘楼の石がきにいくつもいくつもあんなでけえ穴があいておりますよ。おまけに、ぺんぺん草がはえやがって、どこか気に入らねえお寺だね。……よッ。青坊主があっちで変なさしずをしておりますぜ!」
声にふり返って見ながめると、本堂の横の庭先で、いかさま年若いひとりの僧が、鳶《とび》人足らしい三、四人のいなせな男どもにさしずしながら、しきりと矢来杭《やらいぐい》を結わせているのが目にはいりました。しかも、その結いがきの中には、まぎれもなく六体の地蔵尊が見えるのです。
「ご僧」
静かにうしろへ近づくと、名人は物柔らかく、だが、その目の底になにものも見のがさぬさえた光をたたえて、静かにきき尋ねました。
「不思議なことをしておりますな」
「は……?」
不意を打たれて、いぶかるようにふり向いた若僧の姿をぎろりと見ると、年はまだ三十そこそこでありながら、その手にしている水晶の数珠《じゅず》には紫の絹ひもが通っているのです。――右門流がずばりと飛びました。
「真言宗の紫数珠は、たしか一寺一院をお持ちのしるしでござりますはず、ご住職でありましょうな」
「恐れ入りました。いかにも愚僧、当寺の住職|蓮信《れんしん》と申す者でござります。あなたさまは?」
「八丁堀の右門にござる」
「おう! そうでござりましたか。ようこそ! では、永代橋のあの一件、お詮議にお越しでござりまするな」
「さよう、この六体はまさしくあちらの分かれ地蔵とはご因縁の女人地蔵とにらみましたが、急にこのような杭垣《くいがき》設けられるとは、どうした子細でござります?」
「あのようなもったいないお姿にされては、ご寄進のかたがたにも申しわけがござりませぬゆえ、盗み出されぬようにと、こうしてきびしく囲うているのでござります。あはは。いや、まったく、用心に越したことはござりませぬ。興照寺のようなおうちゃく寺では、地蔵尊どころか、いまにご本尊
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