おらんのか、ついでに二十四本のしごきの中も洗ってきなよ」
「へへんですよ。まごまごしていたんじゃねえ、それをいま洗ってきたんだ。二十五本納めたしごきが花見に浮かれ出たのに一本不足の二十四本とは、これいかにと思ったからね、ちょいと気をきかして当たってみたら、不思議じゃござんせんかい。二十四本のしごきはみなからっぽのぬけがらで、お蘭弁天がまたどうしたことか、きのう急に浅草の並木町とやらの家へ宿下がりを願い出して、それっきりきょうも姿を見せんというんですよ」
「なにッ、そうか! さては、やられたなッ。芽が吹きやがった。ゆうべ八丁堀へこかし込んだあのちゃちなおどし文のなぞが、それでようやく新芽を出しやがったわい。幸助ッ、むろんおまえがおどし文なんぞ、あんないたずらしたんじゃあるめえな」
「め、め、めっそうもござりませぬ。文取り返したさに、この四、五日は無我夢中、どんなおどし文かは存じませぬが、てまえの書いたものは文違いでござります」
「しゃれたことをぬかしゃがらあ。伝六ッ、お蘭の家は並木町のどこだといった」
「かどにかざり屋があって、それから三軒めのしもた屋だという話です」
「眼《がん》はそこ
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