、西国へ。
女夫《めおと》ふたりの札参り。
じゃか、じゃか、じゃと踊って舞って、お蘭しごきの二十四人が向こうとこちらに声を合わせつつ、伝六ここをせんどと大浮かれです。
「品川沖から入道が、八本足の入道が、上がった、上がった、ねえ、だんな」
ほんに、寝顔がよいそうな。
意気な殿御にしっぽりと。
「ぬれたあとから花が散る。コラサノサアのさあこいだ。ねえ、だんな、いっぺえどうですかい」
せつな!
ザアという雨でした。花のころにはつきもののにわか雨です。
とたん! 右往左往と右に走り左に逃げて、雨を避けながら走りまどう浮かれ女、浮かれ男の群衆の中から、とつぜん絹を裂くようないくつかの女の悲鳴があがりました。
「お出会いくださいまし!」
「お出会いくださいまし!」
「どろぼうでござります! お山同心さま!」
「くせ者でござります。くせ者が出ましてござります」
「しごきどろほうでござります」
「え! ちくしょうッ。だんな、だんな。出やがった、出やがった。ね、ほら、ほら! あれが出やがったんですよ」
おどろいたのは、品川沖から上がったつもりで、たこも入道のひょっとこ踊りに浮かれ騒いで
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