いのは、宵越しに鼻をつままれたままでいる伝六です。
「じれってえね、いつまで寝ているんですかよ。明けたんだ、明けたんだ。もうとっくに今日さまはのぼったんですよ」
がんがんとやりながらはいってくると、鼻をつままれた寝ざめの悪さが腹にたまっているとみえて、頭ごなしにがなりたてました。
「しゃくにさわるね。ゆうべなんていったんですかよ。朝ははええんだから道草食うなといったじゃござんせんか。つがもねえひとり者がまくらと添い寝をやって、何がそういつまでも恋しいんですかい。お重も、かまぼこも、瓢《ふくべ》も、ちゃんともう用意ができているんだ。どこへ行くか知らねえが、今のうちに起きねえと犬に食わしちまいますぜ」
朝雷もけたたましく鳴りだしたのを、
「音がいいな」
軽く受け流してぬっと夜着の中から顔を出すと、おちつきはらいながら不意にいいました。
「その鳴りぐあいじゃ切れ味もよさそうだから、威勢ついでにちょっくら月代《さかやき》をあたっておくれよ」
「な、な、なんですかい! ええ! ちょいと! 人を茶にするにもほどがあらあ、だから、ひとり者をいつまでもひとりで寝かしておきたかねえんだ。無精ったら
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