、暖かく寝ろよ」
 ぷいと表へ出ると、うそうそとひとりで笑いながら、何思ったかやにわに伝六を驚かしていったものです。
「あにい。この辺のどこかにかまぼこ屋があったっけな」
「へ……?」
「かまぼこ屋のことだよ」
「はてね。かまぼことは、あの食うかまぼこのことですかい」
「あたりまえだよ」
「ちくしょうッ。さあおもしろくなりやがったぞ。右門流もここまで行くとまったく神わざもんだね。お蘭しごきの下手人がかまぼこ屋たア、しゃれどころですよ。板を背負ってはりつけしおきとはこれいかにとね。ありますよ! ありますよ! ええ、あるんですとも! その横町を向こうへ曲がりゃ、江戸でも名代の伊豆屋《いずや》ってえのがありますよ」
「買ってきな」
「へ……?」
「三枚ばかり買ってこいといってるんだよ」
「ね……!」
「何を感心しているんだ。うちのだんなは特別食い栄耀《えいよう》のおかただから、いちばん上等をくれろといってな、値段にかまわず飛びきり一品を買ってきなよ。それからついでに、あたりめ甘露煮、なんでもいいからおまえさんの口に合うようなものをいっしょにたんまり買って、酒も生一本を一升ばかり忘れずに求めて
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