々《けんけんごうごう》と騒ぎたてた群集をけちらして、表警備、忍び警備、隠れ警備の任についていた町方一統の面々が先を争いながら駆けつけると、われこそ宰相の御意にかなおうといわぬばかりに、ぐるぐると伊豆守のお身まわりに寄り添いながら、その下知を待ちうけました。
しかし、伊豆守は声がないのです。何者かの姿を捜し求めるかのように、しきりとあたりを見まわしていられましたが、そのときふとお目に止まったのは、だれでもない、じつにだれでもない、わが捕物名人右門の姿でした。しかも、名人がまた騒がないのです。
「てまえならばここに――」
いうようにひざまずくと、胸から胸へ、目から目へ、千語万語にまさる無言の目まぜをじっと送りました。同時に、宰相の口から、うれしい鶴《つる》のひと声がかかりました。
「おう、やはり参っておったか! 捜したぞ。――余の者どもに用はない。行けッ、行けッ。右門ひとりがおらばたくさんじゃ。みなひけい!」
まことに、まったくこんな胸のすく一語というものはない。大鴻《たいこう》よく大鴻の志を知り、名手よく名剣の切れ味を知るとはまさにこれです。その力量を信ずることだれよりも厚い名宰相
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