焦熱地獄の苦しみうけて相果てた! せめてもの罪ほろぼしに、この泥斎も業火に身を焼いていま行くぞ! 許せよ! 許せよ! いま行くぞ!」
叫びを聞いたとみえて、そのときまでもなお土室の中に隠れすくんでいたらしいあの粂五郎が、まろびつころびつ駆けてくると、遠くからおろおろとして呼ばわりました。
「なにをなさります! おやじさま! そのありさまは、そのお姿は、なんとしたのでござります!」
あと先かまわず走り寄ろうとしたのを、
「行くでない! 寄るな! 行くな!」
身じろぎもせずに端座したままで名人右門が、ぴいんと胸にしみ入るような声もろともしかりつけました。
「死なせい! そちゆえに犯した罪を悔いての最期じゃ。名工の最期飾らせい!」
放たれた声といっしょに、断末魔迫ったか、ばたり、泥斎は火炎に包まれたまま、雪の庭にうっ伏しました。――同時に、まばたきもせず見守っていた名人の口から一言、沈痛な声が放たれました。
「みごとじゃ。泥斎、安らかに参れよ!」
はっと折り曲げたように首をたれると、二筋、三筋、そのほおにしずくの流れをおとしました。――ほっとわれに返って、伝六もいったものです。
「
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