の言いがかりに責められるを悲しんで、知らぬまに窯《かま》へはいり自害したに相違ござりませぬ。せめてものなごりにと、このみごとな群青焼きを置きみやげに自害したのでござります」
「そうであったか! つかなんだ。つかなんだ。それまでは察しがつかなんだ。そちも音に聞こえた陶工、名人達者といわれるほどの者の心に、そのような濁りあるまいと存じて疑うてもみなかったのだ。それにしても、泥斎!――魔がさしたのう!」
「面目ござりませぬ! 源五兵衛親子ふたりを殺した泥斎の罪ほろぼしはこれ一つ! ごめんなされませ!」
 突然でした。悲痛な声もろともにすっくと立ち上がりざま、そこのたな奥にあった素焼きのかめをかざし持って、頭から五体一面に中の水液をふりかぶったかと思うと、泥斎の覚悟また壮烈です。
「これこそ南蛮渡来の油薬、とくとごろうじませい」
 叫びつつ火打ち石取り出して、五体かまわずに切り火を散らし放ったかと見えるや、全身たちまちぱっと火炎に包まれました。同時に、雪の庭へ駆けおりると、生き不動です、生き不動です。火に包まれた不動明王さながらの姿の中から、悲痛な絶叫を放ちました。
「弥七郎許せよ! そなたも
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