でぴょこんといっぺんに生まれ変わりてえな。く、くやしがらずと、そんなにくやしがらずと、なんとか知恵の水の井戸替えしてみておくんなせえな」
「いくら考えても、それがわからねえんだ。未熟だな……申しわけがない。伊豆守様にお会わせする顔がない……、な! 伝六! 未熟だな。まだおいらも修業が足りねえんだ……この世に、おいらが考えて、おいらがにらんで、解けねえなぞはなにひとつあるめえと思っていたのに、人の心の奥の奥の奥底だきゃわからねえな。いいや、芸道に打ち込んだ者の、魂まで打ち込んで芸道に精進した者の、命までかけた心の秘密ア、心のなぞは、さすがのおいらにもわからねえわい――。未熟だな……未熟だ、未熟だ。くやしいよ。伝六、くやしいな……情けねえな……身の修業の足りねえのが、いまさら恨めしいわい……」
 せつなです。
「申しわけござりませぬ!」
 不意でした。肺腑《はいふ》を突きえぐるようなその声を、黙々として聞いていた泥斎が、とつぜん言い叫んだ声もろともに、がばとそこへひれ伏すと、意外な秘密を明かしました。
「すみませぬ。あいすみませぬ。この老いぼれが隠しだてしていたのでござります」
「なにッ、
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