くらいでした。しかも、これがただお参りするのではないからかなわないのです。行きと帰りと絶え間なく続くそのお召し駕籠が、途中すれ違ったとなると、
「酒井|大和守《やまとのかみ》様ア――」
「土屋|相模守《さがみのかみ》様ア――」
といったぐあいに、いちいち名のりをあげて、いちいちまたたれをあげながら、お大名どうし双方ごあいさつ会釈をかわさねばならぬしきたりになっているため、ややこしさ、ぎょうぎょうしさ、もしも気短者の伝六が万石城持ちの相模守にでもなっていようものなら、さぞかし、べらぼうめ、じれってえや、の巻き舌|啖呵《たんか》が絶え間なくお乗り物から飛び出したにちがいないほどの煩わしさでした。
そのうえに見物は町々屋並みを埋めるばかり、将軍家還御になってしまうと、道に張られていた引きなわはいっせいにもう取りのけられて、見物かってのお許しになっているため、雪にもめげずに押し寄せた有象無象が、押すな押すなの大混雑です。
「ちくしょうッ」
「いてえ!」
「踏んだな!」
「やかましいや。半鐘どろ! やい。のっぽ野郎! そのろくろ首をひっこめろッ」
「じゃまっけで見えねえじゃねえか。ひっこぬい
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