のでき、眼《がん》のつけどころ、慈悲の用意も人とは違うおいらですよ。隠さずおいいなせえな」
「…………」
「え! お嬢さん! 今のさきやさしくにらんで、な、もし、源之丞さまと呼んだあの声になぞがあるはずだ。一をきいて十を判ずる、勘のいいのはむっつり右門の自慢ですよ。いいなといったら、いいなせえな!」
「…………」
「ほほう。江戸娘にも似合わず強情だね。ならば、おいらがずばりと一本肝を冷やしてやらあ。あの橙《だいだい》に打ち込んだ山住流の三角針はなんのまねです!」
「ま! そうでござりましたか! あればっかりはだれも気づくまいと思いましたのに――さすがはあなたさまでござります。それまでもご看破なさいましたら、申します! 申します! かくさずに何もかも申します……」
はらはらとたまりかねたように、とつぜん露のしずくをひざに散らすと、消え入るように打ちあけました。
「お騒がせいたしましてあいすみませぬ。ご慈悲おかけくだされませ。それもこれも、ひと口に申しますれば、みな恥ずかしいおとめ心の――」
「恋からだというんですかい!」
「あい。それも片思い――そうでござります! そうでござります!
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