がきいたのです。ぎょっとしながら、町奴どもがたじたじとなってあとへ引いたのを、意気揚々として伝六がくくされているさるぐつわの面々のところへ近づくと、なかなかに味な締め方でした。
「情けに刃向こうやいばはねえといってな、武蔵《むさし》坊弁慶でせえも、ほろりとなりゃ形見に片そでを置いてくるんだ、伝六様はむだをいわねえ。な! ほら! このとおりさるぐつわをはずしてやらあ。知ってることはみんないいな」
「なんです? 何をいうんですかい」
「とぼけるねえ! 右門のだんなのせりふを請け売りするんじゃねえが、大手責めも十八番、からめ手責めも十八番、合わせて三十六番の責め手を持っていらっしゃるおいらだよ。すっぱりいやいいんだ。隠さずにすっぱり白状すりゃいいんだよ」
「わからねえおかただね。ぱんぱんと、ひとりでいいこころもちそうに啖呵《たんか》をおきりのようですが、いってえ何を白状するんですかい」
「決まってるんだッ。どこのどやつに頼まれて、こんなろくでもねえ飾り橙《だいだい》をぐるぐると駕籠《かご》なんぞに乗せて持ちまわったか、それを白状すりゃいいんだよ」
「こいつアおどろいた。変な言いがかりはつけっ
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