にしたようにやりました。
「へへへ……へへへ」
 不審に思って、のっそりと手を伸ばしながら障子をあけてひょいと見ると、
「へえ、おはよう!」
 こんなおかしなやつというものもない。かれです。あのおしゃべり屋の伝六なのです。
「なんだよ! 気に入らねえやつだな。朝っぱらから庭先でへへへというやつがあるかい!」
「へへへ。いえ、なにね、なんしろまだめでてえんだ。笑う門には福きたるってえいうからね。めでてえお正月そうそうにがみがみやっちゃいけめえと思って、ちょっと笑ったんですよ。――ところで、大忙しなんだ。ね! ちょっと! じれってえな! むかっ腹がたってくるじゃござんせんか! 起きりゃいいんだ。はええところ起きて、とっととしたくすりゃいいんですよ!」
 よくよくのあいきょう者です。正月だから笑わなくちゃいけねえとやったその舌の根のかわかぬうちに、もうがんがんとお株を始めてどなりだしました。
「しゃくにさわるな! ね! ちょっと! あな(事件)なんだ! あななんだ! あごなんぞなでてやにさがっている場合じゃねえんですよ! 江戸八百八町のべたらにね――」
「ウフフ……」
「ウフフたア何がなんで
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